201608南会津

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浅草から特急きぬに2時間乗り、鬼怒川温泉駅の向かいのホームで待っている野岩鉄道の快速に乗り換えると、40分ほどで会津高原尾瀬口駅に着く。

もともとこの駅は、国鉄会津線会津滝ノ原駅と称していたのが、鬼怒川経由で首都圏と繋がったのにあわせて、昭和61年に会津高原駅に、平成18年には今の会津高原尾瀬口駅に名前が変わったのであって、尾瀬の裏玄関口にあたる。

ここから尾瀬に抜ける国道362号沿いは、檜枝岐村会津駒ケ岳など魅力が多いが、詳しい山地図を眺めていると尾瀬国立公園に指定された200名山の田代山帝釈山の他、七ヶ岳、荒海山といったちょっと気がつかないような山々の名前がたくさん並んでいる。田代山の湿原はかねてから行きたいと思っていたし、一泊してついでにもう一つぐらい登ってみようと思ったのである。

尾瀬口の駅からバスに乗り、いつもは尾瀬まで2時間近く揺られるのが今回は30分ぐらいで降りる。穏やかな雰囲気の宿の主人の運転で、直接七ヶ岳の登山口まで送ってもらう。最初は、尾瀬口駅からタクシーで羽塩登山口に入り、会津一美しいという白樺の森を歩いて、滑沢を登るルートを考えていたのだが、タクシー会社に電話したところ、去年の台風で登山道が崩落しており、田島側からは入れないとのことだったので、高杖のスキー場側からピストンすることにしたのである。このことを主人に聞いてみると、去年の台風というのは茨城あたりで利根川が氾濫したやつのことで、南会津も報道は少ないが被害は大きく、やっと尾瀬に通じるメインの国道の護岸工事が終わろうとしているところである。主人もそのときは埼玉に出かけていて、電話も通じず三日も帰れなかったとのことであった。生活道路からしてそんな状況なので、林道や登山道の整備は進んでいないようだった。

高杖からのルートは、大きなスキー場のゲレンデを登っていく。登山道歩きに比べてスケールが大きいので、歩いても歩いても景色が変わらず、隣に冬は稼動しているリフトが止まっていることもあり、苦行の感が強い。

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広大なスキー場を歩いて登る苦行

このスキー場は1980年にできたようだ。80年代といえば一番スキーがはやっていた頃だろう。会津滝ノ原駅会津高原駅に変わったのは6年後の1986年である。麓のペンション村も自分が勝手に想像していた脱サラ系とはまったく違う立派なものだった。スキー人口も減っているし、台風で登山道も崩落、原発の影響もあるだろう。バブルのあだ花、なんて言葉が頭に浮かんだが、予約したときは他のペンションも含めてほぼ部屋が埋まっていたのだ。檜枝岐に泊まったときも同じことを思ったが、知る人ぞ知るリピーターの定宿がこのあたりには多いようである。

そんなことをぼんやり考えながら、高原とはいえ日差しの暑いゲレンデを1時間ぐらい登ると、ゲレンデ上部に七ヶ岳登山道の看板が見えた。ここからは樹林帯の登山道である。少し登ると稜線に出て、視界が開け、七ヶ岳がすぐに見えた。30分ぐらいでつきそうな距離だ。稜線から見下ろす原生の森は深い。アルプスとはまた違った山の濃さである。是非、別ルートから登りたかったが仕方がない。高杖から登ると4時間ぐらいのものなので、飛び石連休の初日のことでもあり、子どもを連れた団体ともすれ違った。

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樹林帯から稜線にでたところ。右奥が七ヶ岳。

ピークに到着し、白く目を引く那須岳などの写真を撮った後、黒森沢ルートにちょっと入ってみる。この先の林道も崩落しているらしく立入禁止の看板が出ているが、ちょっと失礼して、滑沢を途中の滝まで歩いてみたいと思う。熊が出るので気をつけて、と主人にいわれたが、実際人気が無く、いつ出てもおかしくなさそうな緊張感がある。じめじめした登山道を15分ほど下ると、沢に出た。
暑い日が続いていたが水量はそれなりにあって、鮮烈な冷たさである。靴を履き替え、足を浸すと実に爽快で、熊のことも忘れそうだ。36度の東京から逃げてきたと思うとなおさらである。大人一人で水遊びをしながら30分ぐらい下ると、傾斜が急なところに出て、左岸にトラロープが張ってある。よもやこれが目指す護摩滝ではあるまいとは思ったが、一人で無理することもないので、ここで引き返した。足を5cm程度浸していただけだが、体中が冷えるような水だった。

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涼やか

16時頃、ペンションに到着。夕食はフランス料理のコース。コースは一人だと間がもたないので困ったが、主人と山のよもやま話をする。
灼熱の首都圏では考えられないが、冷房も扇風機も不要な夜だった。

翌日は、予約どおりシャトルタクシーが7時半に迎えに来た。乗合ということだったが、自分ひとりの貸切状態だったので、随分早く帝釈山の馬坂登山口についた。朴訥な運転手の話では、開山日にはマイクロバスが出て、道の悪い林道を上がっていくそうだ。馬坂登山口の峠に更に越えていくと、いつもの鬼怒沼へのバスが通るあたりに出るという。普段車で移動しないので、このあたりの地理関係がはっきりしないでいたが、なんとなく繋がった感がある。田代山帝釈山尾瀬国立公園に入ったので予算がついたのか、登山口には天水利用の真新しい水洗トイレが建っていた。

馬坂登山口から帝釈山山頂までは、整備された木道を歩いて40分ぐらいである。男体山などが見えるはずだが、雲が厚い。
なだらかな福島と栃木の県境を東に向かって1時間ぐらい歩くと、田代山のまた水洗トレイがあり、湿原に出た。尾瀬に比べてしまうともちろん見劣りはするが、標高2000mに忽然と湿原が現れるのは不思議である。高山植物の時期は終わっていたが、食虫植物がたくさん生えている。

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田代山湿原

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モウセンゴケ

田代山からは小一時間で猿倉登山口に降りてしまう。身支度をしているとアブがすごい。これまで七ヶ岳でも田代山でも、ほとんどいなかったのに、ここだけどうしたことか。しかも馬坂からの登り始めが早かったので、帰りのシャトルタクシーの時間まで1時半もある。こりゃ困ったぞ、と思ったらもうタクシーが待っていてくれた。今日は僕の貸切で、馬坂から直行したのだろう。すぐ乗り込んで尾瀬口駅に向かってもらった。途中、茅葺の古い民家が現役で使われていたり、そば畑が満開の白い花で埋まっていたり、どうもやっぱりここいらは好いところのようだ。車があれば、もっとゆっくり下界も楽しめるのだが。

東武特急きぬの予約を早めて、蒸し暑い東京に戻った。